半導体TiO2微粒子配合歯磨剤の臨床応用
-齲蝕原生細菌との関連性-
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Clinical Application of Tooth Pase Containing
Semi-conductor TiO2 Powder
-Its Relation to Cariogenic Bacteria- |
三浦宏子、磯貝恵美子、磯貝 浩
脇坂仁美、上田五男、井藤信義
Hiroko MIURA , EmikoISOGAi , Hiroshi ISOGAI Hitomi WAKIZAKA, Itsuo UEDA and Nobuyoshi ITO |
Received July 11,1989;accepted July 31,1989 |
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緒 言 |
半導体TiO2微粒子に光を照射するとEscherichiacoliをはじめとする数種類の細菌に対して、殺菌効果を示すことが報告されている。また、口腔内細菌についても齲蝕原生細菌のひとつであるStreptococcus mutansに対して半導体TiO2微粒子の殺菌効果が認められている。歯周疾患原生細菌として有力視されている Bateroides gingivalisをはじめとする黒色集落形成性Bateroidesに対する殺菌効果も報告されている。特に、S.mutansに対する効果は大きく、半導体TiO2を歯科的に臨床応用する場合、齲蝕予防に効果的であると考えられる。
齲蝕の予防における歯口清掃の意義は極めて大きく、歯口清掃の補助剤である歯磨剤に、クロルヘキシジン等の殺菌剤を添加して、より積極的な齲蝕予防を行う試みが多く取り入れられており、成果をあげている。本研究は、S.mutansに対して殺菌効果を示す、半導体TiO2を配合した歯磨剤を実際に大学生使用させて、歯垢および唾液中のS.mutansを中心とした細菌数の変化を調べて、半導体TiO2添加の歯磨剤の齲蝕予防効果について検討した。 |
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材料および方法 |
- TiO2配合歯磨剤
Table 1に、斉藤らの方法に準拠して作成した歯磨剤の組成を示した。歯磨剤を配合したTiO2は平均粒径0.021μmのP-25(70%アナターゼ、30%ルチン型結晶、アナロジル製造法により作製)および平均粒径0.30μmのTA-500(アナターゼ型結晶)である。前者は半導体効果のよって、S.mutansに対して殺菌効果を有し、後者は半導体効果を有しないTiO2である。Table 1に示すように、このP-25を5%含有する歯磨剤 A、TA-500を5%含有する歯磨剤 B、およびTiO2を全く含まない歯磨剤Cの3種類を用いた。
- 被験者および歯磨剤使用条件
被験者は東日本学園大学歯学部第6学年の男子25名、女子5名、計30名の内科的に異常が認められない健康な学生である 3種類の歯磨剤を各々10名ずつの被験者に使用させた。なお、被験者には使用歯磨剤の種類を知らせずに、その効果判定は盲検法によった。ブラッシング方法は、テクニックの差異が比較的に現れにくいといわれているスクラビッング法を用いた。ブラッシング時間は1回3分間とし、1日あたりのブラッシング回数は毎食後および就寝前の計4回とした。使用歯刷子は、ケミテック社製ヤングを用いた。各歯磨剤の使用量は、歯刷子の刷毛部の約1/2を覆う量とした。なお、TiO2の光触媒反応を促進させるため、ブラッシングは昼白色螢光灯(波長380-750nm、peak 480、580nm、18W、FLS20SS、W-F/18、東芝)から30cm離れて、光源に向かって実施させた。被験者の口腔内環境を揃えるために実験1週間前にすべてに被験者に対して、対象歯磨材Cでのブラッシングをさせた。実験前、実験開始後1週間、および実験開始後2週間の時点において、齲蝕原生細菌としてよく知られているS.mutansおよび乳酸桿菌を中心に、歯垢と唾液中の細菌数の変化をみた。歯垢および唾液の採取は午前10:00-11:30ないし午後3:00-4:00に行った。歯垢は滅菌綿棒を用いて、歯面を3-4回ほど擦過することによって採取した。なお擦過する前と後の重量差から採取した歯垢の重量を求め、唾液はパラフィルム刺激下で2mlを採取した。
- 細菌培養について
前項の方法で歯垢を採取した綿棒をGAM broth(日水製薬社製)10ml中でよく分散させ、連続希釈を行い、非選択培地として5%馬血液添加 BL 培地(日水製薬社製)、レンサ球菌の選択培地として Mitis-Salivalius培地(Difeo、Co.ltd.、MS培地)S.mutansの選択培地としてGoldmanのMSB培地、および乳酸桿菌の選択培地として Rogosa の SL培地(Difeo、Co.ltd.)接種した。採取した唾液は、vortex mixerにてよく混和した後、その0.1mlをGAM broth 10ml中に入れ、以下、歯垢材料と同様な処理を行った。BL培地とRogosaのSLは培地嫌気条件下で2日間培養し、MS培地とMSB培地は嫌気条件下1日培養し、さらに好気条件下で1日培養した。培養後総嫌気性菌数、総レンサ球菌数、S.mutans数および乳酸桿菌数を算定した。結果についてはプラーク1mgおよび唾液1mlあたりの細菌数につて示した。
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結 果 |
- 歯垢中の細菌数の変化
歯垢中のS.mutans数の変化を、Fig.1およびTable2に示した。実験開始1週間後の時点で、S.mutans数は、半導体効果を有するTiO2含有の歯磨剤A使用群のほうが、TiO2を含まない歯磨剤C使用群より、有意に低い数値を示した(p<0.01)。実験開始2週間後の時点でも、この傾向は同様であった。S.mutansのみならず乳酸桿菌数および総レンサ球菌数の減少が認められた(Table2)。乳酸桿菌数は、実験開始1週間後および2週間後の時点で、歯磨剤A使用群の方が歯磨剤C使用群と比較した時、有意に低かった(p<0.05)。総レンサ球菌数については、開始2週間で歯磨剤A使用群が歯磨剤C使用群より有意に低い数値を示した(p<0.01)。しかし、総嫌気性菌数では各歯磨剤使用群間で有意差は認められなかった。 光触媒反応による半導体効果を有しないTiO2含有の歯磨剤B使用群は、対照歯磨剤C使用群に比較していずれの細菌数についても有意差が認められなかった(Table2)。また、歯磨剤A使用群と歯磨剤B使用群の間、および歯磨剤B使用群と歯磨剤C使用群の間の比較では、いずれの時点においても、総嫌気性菌数、総レンサ球菌数、S.mutans数、乳酸桿菌数の有意な減少は認められなかった。
- 唾液中の細菌数の変化
唾液中の総嫌気性菌数、総レンサ球菌数、S.mutans数および乳酸桿菌数の変化をTable2に示した。S.mutans数、乳酸桿菌数、総レンサ球菌数、および総嫌気性菌数については、各使用群間で有意差は認められず、唾液においては歯磨剤中のTiO2の半導体効果は認められなかった。
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考 察 |
| 半導体TiO2配合歯磨材の使用後における、in vivoでの効果をみたところ、S.mutansに対して殺菌効果が認められた。すなわち、半導体TiO2配合歯磨材を2週間使用した後では、プラーク中のS.mutans数が使用前と比較して約1/100に減少した。このことは、斉藤らおよびMorioka et al.が報告しているin vivoでの殺菌効果とよく一致していた。半導体TiO2のS.mutansに対する殺菌効果のメカニズムは、完全に解明はされていないが、斉藤らは in vitroにおいて半導体TiO2が菌体に付着し、直接電子の授受が生じこの結果としてS.mutansとの間に擬集反応がおきたため、殺菌効果があらわれると報告している。in vivoでは、種々の口腔内細菌の共存や唾液中のイオンおよびタンパクの存在を考慮しなければならないため、一概にin vitroの場合と同様とはいえないだろう。しかし半導体TiO2配合歯磨剤の使用によって、in vitroと同様な結果が得られたことから、歯磨剤中のTiO2が歯垢中のS.mutans数の減少に関与してると考えられる。 半導体TiO2光触媒反応によるS.mutansにたいする殺菌効果は、通常の昼白色螢光灯の照射よりも短波長螢光灯の照射ほうが効果があるとされている。しかし、本研究では、歯磨剤が日常家庭で使用されるものであることを考慮して、家庭で通常使用されるものであることを考慮して、家庭で通常使用されている昼白色螢光灯を用いた。また、in vitroでは、光源からの距離は5cmであったが、実際のブラッシングでは、このような近距離で行うことは現実的にないので、光源からの距離を30cmとした。その結果、in vitroでは結果ほど著しくないが歯垢中のS.mutans数の減少が認められた。このことは、本歯磨剤を家庭で常用する事によって、齲蝕制御効果が期待できると考えられる。 唾液中のS.mutansをはじめとする齲蝕原生細菌に対しては、半導体TiO2添加歯磨剤は有意差が発現するほどの制御効果は認められなかった。半導体TiO2配合歯磨剤は歯垢中細菌に対して効果を示したのに対して、唾液中の細菌に対する効果が低かったのは、歯磨剤の作用部位は主に歯面であるため、歯面に接した歯垢においてより効果を示したものと考えられる。また、採取した唾液が刺激唾液であるために、歯磨剤の作用が及ばなかったとも考えられる。今後、さらに安静唾液についても検討する必要があるものと思われる。 さらに、本研究の結果では、歯磨剤A使用群において歯垢中の乳酸桿菌数の減少も認められた。このことは、松永が報告しているin vitroでの、半導体TiO2のLactobacillus acidophilusに対する殺菌効果とよく一致していた。齲蝕の発症に歯垢中のこれらの細菌が大きく関与していることは、齲蝕予防に対しても効果的であることを示唆している。 なお、酸化チタンは、経口投与しても人体には影響がないことが確認されており、すでに化粧品にも配合されている。したがって、歯磨剤への配合は安全上問題がなく、かつ歯垢中の齲蝕原生細菌数の現象に効果を有することは、新しい齲蝕予防効果をもつ歯磨剤として有用であると考えられる。 |
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結 論 |
| 半導体TiO2添加の歯磨剤によって、歯垢中のS.mutansの抑制に効果が認められあ、半導体TiO2配合歯磨剤は齲蝕予防効果があるものと示唆された。 |
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文 献 |
- 松永 是:光半導体粒子による殺菌、防菌防黴、13;211、1985.
- Morioka、T.、Saito、T.、Nara、Y.、and Onoda、K.;Antibacterial action of powdered semiconductor on serotype g Streptococcus mutans、Caries Res.、22;230、1988.
- 磯貝恵美子、三浦 宏子、磯貝 浩、脇坂 仁美、上田 五男、井藤 信義:半導体TiO2微粒子の光触媒反応による黒色集落性Bacteroidesに対する反応、口腔衛星学会誌、38;588、1988.
- Loe、H. and Kleinman、D.V.:Dental plapue control measures and oral hygiene practice、IRL Press、1986、p.1.
- Emilson、C. G. and Fornell、J.:Effect of toothbrushing with chlorhexidine gel on salivary microflora、oral hygiene、and caries、Scad. J. Dent. Res.、84;308、1976.
- Gazi、M. I.、Lambourne、and Chagia、containing salvadora persica compared with chlorhexidine gluconate、Clinical Preventive Dentistry、9;3,1987
- 斉藤俊行、堀江純司、奈良美夫、小野田金児、森岡俊夫:半導体Tio2微粒子用混和基剤に関する基礎的研究、口腔衛生学会誌、38;576,1988.
- 斉藤俊行、堀江純司、奈良美夫、小野田金児、森岡俊夫:半導体Tio2微粒子の光触媒反応によるS.mutansに対する殺菌効果、口腔衛生学会誌、38;574,1988.
- 斉藤俊行、堀江純司、奈良美夫、小野田金児、森岡俊夫:半導体Tio2懸濁微粒子の光触媒反応によるS.mutansに対する殺菌効果とその顕微鏡所見、口腔衛生学会誌、38;574,1988.
- Thylstrup、A. and Fejerskov、O.:Textbook of cariology、Munksgaard、1986、p.107.
- 江口隆之:超微粒子状無水酸化アルミ“Aluminium Oxide C”及び、超微粒子状酸化チタン“Titanium Oxide P25”の人体への影響、フレグランス、ジャーナル、33;62、1978.
- 有吉敏彦、有園幸司:二酸化チタンの安全性に及ぼす影響、フレグランスジャーナル、80;40、1986.
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